2025年6月23日 カテゴリー:SDGs・学生プロジェクト
連日の雨模様が続く東京・目黒区。 どんよりとした雲が垂れ込める中、東京ウグイスシラギク国際大学(TUSU)の南館屋上にある「Komaba Sky Farm(駒場スカイファーム)」だけは、鮮やかな緑色に輝いていました。
本日昼休み、この屋上農園で収穫されたばかりのレタスとバジルを使った特別メニュー「駒場グリーン・ジェノベーゼ」が学生食堂「KEYAKI」で提供され、用意された200食がわずか15分で完売するという盛況を見せました。
しかし、この緑の葉が皿に載るまでの道のりは、文字通り「泥沼」との戦いでした。
アルゴリズムが読めなかった「カビ」の恐怖
本プロジェクトは、環境都市工学部と情報理工学部の有志学生チーム「Root & Code(ルート・アンド・コード)」が2024年秋から進めてきたものです。「都市の未利用空間における食料自給率の向上」を掲げ、IoTセンサー制御による水耕栽培システムの構築に挑みました。
順調に見えたプロジェクトに暗雲が立ち込めたのは、6月に入り梅雨前線が停滞し始めてからのことです。 気温24度、湿度90%以上。カビや病気が最も発生しやすいこの過酷な環境に対し、学生たちが設計したAIモデルは当初、無力でした。
「センサー上の数値は『適正範囲』を示していたんです。でも、現場に行ってみると、レタスの根が茶色く変色し始めていました。いわゆる根腐れです」 プロジェクトリーダーの大学院1年(生物情報学)、イ・ジスさんは当時の焦りを隠しません。 「日照不足を補おうとしてLEDの照射時間を延ばしたのが裏目に出ました。植物が『徒長(とちょう)』してひょろ長くなり、さらに通気性が悪化して蒸れてしまったのです。教科書通りのアルゴリズムが、日本の梅雨という『魔物』に負けた瞬間でした」
高等部園芸部という「アナログな救世主」
システムのエラーログを見つめて立ち尽くす大学生たちを救ったのは、意外な協力者でした。 同じキャンパス内にある高等部(High School)の園芸部の生徒たちです。普段、校庭の隅で土と向き合っている彼らは、屋上のプランターを見るなり即座に言いました。
「先輩、これ、風が止まってますよ。数字じゃなくて、葉っぱが息苦しそうにしてる」
データサイエンス専攻の学生たちは、「風速」を数値としてしか見ていませんでしたが、高校生たちは「葉の揺れ方」という肌感覚で異常を察知したのです。 この指摘を受け、チームは急遽プログラムを書き換えました。一定の間隔で送風ファンを回すのではなく、カメラ画像から葉の密集度を解析し、局所的に強い風を送って湿気を飛ばす「マイクロ・サーキュレーション」システムを3日で実装しました。
デジタルな頭脳と、アナログな身体知。この二つが噛み合ったことで、壊滅の危機に瀕していたレタスたちは、奇跡的に持ち直しました。
「味」という最後の審判
そして迎えた収穫の日。 収穫されたレタスは、スーパーに並ぶものよりも少し小ぶりで、形も不揃いでした。
試食会に参加した藤沢カオリ学長は、一口食べて微笑み、そして正直な感想を述べました。 「うん、少し苦いですね。でも、その苦みの中に、君たちが雨の中で格闘した味がします。とても生命力を感じる味です」
完璧な甘さではありませんでした。日照不足の影響は隠しきれず、茎には野性味あふれる苦みが残っていました。しかし、学生たちはその評価を誇らしげに受け入れました。 「AIを使えば、工場のような均一な野菜が作れると思っていました。でも、僕たちが作ったのは工業製品ではなく『命』だったんです。この苦みこそが、僕たちの研究成果(データ)です」(情報理工学部3年・田中翔太さん)
「食べる」データ・ジャーナリズム
今回のプロジェクトでは、芸術工学部の学生による「Edible Data(食べられるデータ)」というユニークな試みも行われました。 食堂で提供されたパスタの皿には、QRコードが添えられており、それを読み込むと、その野菜が育った30日間の気温、湿度、そして学生たちがトラブル対応した履歴が、美しいモーショングラフィックスとして表示される仕組みです。
ただ消費するのではなく、その野菜が辿ったドラマを味わう。 学生食堂の一角で起きたこの小さなムーブメントは、食とテクノロジー、そして教育の新しい関係性を提示しています。
スカイファームの次なる挑戦は「真夏の酷暑」。 コンクリートの照り返しが50度を超える8月に向け、彼らは今、遮熱ネットの自動展開システムの開発に汗を流しています。 TUSUの屋上は、まだしばらくの間、眠らない実験室となりそうです。
(文:TUSU広報室 / 撮影:写真部)

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