闇の中の光を頼りに 渋谷・駒場エリアで行われた大規模夜間避難シミュレーションで学生チームが提示した「逃げない」という選択肢

2025年9月9日 カテゴリー:社会貢献・都市防災研究

台風14号が去り、少し肌寒い風が吹き始めた9月上旬の夜。 普段は学生たちの活気で満ちる駒場キャンパスと、そこから続く渋谷方面への裏道が、奇妙な静寂と幻想的な青い光に包まれました。

9月1日の「防災の日」に合わせ、東京ウグイスシラギク国際大学(TUSU)は、目黒区および渋谷区と連携し、首都直下型地震の発生を想定した「夜間広域避難実証実験(Night-time Evacuation Drill 2025)」を実施しました。 参加したのは、近隣住民と学生ボランティアを含めた約800名。しかし、これは従来の「防災頭巾をかぶって整列する」訓練とは一線を画すものでした。

そこで試されたのは、情報理工学部と芸術工学部が共同開発した、**「パニックを鎮静化するための光のアルゴリズム」**です。

最短ルートが「正解」とは限らない

プロジェクトの発端は、2024年の能登半島地震の教訓でした。 「災害時、AIは地図上の最短ルートを避難経路として提示します。しかし、街灯が消えた夜の被災地で、瓦礫が散乱する狭い路地を、スマホの画面だけを頼りに歩けるでしょうか?」 都市安全工学を専攻する博士後期課程のリーダー、マイク・アンダーソンさんはそう問いかけます。

研究チームが事前に行ったVRシミュレーションでは、衝撃的なデータが得られていました。 AIが「安全かつ最短」と判断した裏道ルートに対し、被験者の60%が「暗くて怖い」という理由で進入を拒否し、結果として危険な大通りに人が殺到してしまったのです。

人間の恐怖心は、アルゴリズムの合理性を凌駕する。 この課題に対し、芸術工学部のインタラクションデザインチームが提案したのが、「アンビエント・ガイダンス(環境による誘導)」というアプローチでした。

街そのものをインターフェースにする

実験当日、午後19時。 「震度6強の地震発生、停電により主要道路の信号機停止」というアナウンスと共に、キャンパス周辺の街灯が一斉に消灯されました(安全のため保安灯は維持)。

闇に包まれた瞬間、参加者のスマートフォンアプリが一斉に振動しましたが、画面には地図は表示されません。代わりに、彼らの足元を照らしたのは、学生たちが事前に設置した数千個の自律型IoTランタンと、校舎の壁面に投影されたプロジェクションマッピングでした。

「走らないでください。光の波に合わせて歩いてください」

壁面には、テキストではなく、ゆっくりと流れる青白い光の波紋が投影されました。 それは、避難を急かす赤い警告色ではなく、副交感神経を優位にし、心拍数を下げる効果がある「シラギク・ブルー」と呼ばれる特殊な色温度の光です。

予期せぬ「渋滞」と、そこからの学び

しかし、実験はすべてが計画通りに進んだわけではありません。 開始15分後、駒場野公園の入り口付近で予期せぬ人の滞留が発生しました。 IoTランタンの一つが通信エラーを起こし、点滅リズムが乱れたことで、参加者が「ここから先は危険なのではないか」と疑心暗鬼になり、足を止めてしまったのです。

対策本部のモニターを見ていた学生たちは青ざめました。 「光のリズムが少しズレただけで、信頼がこれほど簡単に崩れるとは想定外でした」(情報理工学部4年・佐藤ユイさん)

現場にいた誘導班の学生が、即座に手持ちのライトで「大丈夫です、ゆっくり進んで!」と声を掛け、何とかパニックは回避されました。 「スマートシティ」の脆さが露呈した瞬間でしたが、同時に、最後は「人の声」が安心のアンカーになるという、極めて人間臭い事実も明らかになりました。

「逃げる」から「留まる」勇気へ

今回の実験のもう一つの大きな成果は、「帰宅困難者」の制御です。 災害時、多くの人が一斉に帰宅しようとすることで群衆雪崩が起きます。今回のシステムでは、一部のエリアの光を「暖色(オレンジ)」に変化させ、「ここは安全な滞留場所です。今は動かないでください」というメッセージを、言語を使わずに伝達することに成功しました。

実験終了後のアンケートでは、参加者の88%が「恐怖を感じずに避難できた」と回答しました。特に、日本語がわからない外国人留学生からは、「言葉のアナウンスが聞き取れなくても、光についていくことで安心できた」という高い評価を得ました。

駒場の夜が教えてくれたこと

講評において、防災心理学の権威である外部有識者はこう述べました。 「君たちが作ったのは、避難誘導システムではない。都市という巨大な空間を使った『集団カウンセリング』だ」

合理的な最短距離ではなく、遠回りでも「心が落ち着く道」を選ぶこと。 それは、効率を追い求めてきた近代都市工学に対する、TUSUからのアンチテーゼでもあります。

学生たちは今、今回の通信エラーのデータを解析し、システムを修正しています。 来年の9月、この「命を守る光」は、キャンパスを飛び出し、実際の渋谷のスクランブル交差点で実装される計画が進んでいます。 暗闇の中でこそ、人の知性は優しく輝く。そんな希望を感じさせる一夜でした。

(文:TUSU広報室 / 写真:都市防災研究会)


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